目がくらむような高さからジャンプしたり、足場の悪い高所を軽快に進んだりする猫。高い場所から落下してもひらりと体を翻して着地する運動能力は、猫の魅力の一つでしょう。
しかし、猫の落下事故は少なくありません。今回は猫にとって危険な高さと、飼い主ができる落下防止策について解説します。
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猫が安全に着地できる高さ
猫が安全に飛び降りられる高さは、6~7m程度だと言われています。これはちょうどマンションの2階部分にあたる高さです。3階以上になると命に関わるケガを負う可能性があります。
猫が空中で大きく体をひねって着地する、まるで体操選手のようなその技を、空中立位反射と言います。これは生後48日齢までに完成される、全ての猫に共通する能力です。
また、よく観察してみると、猫が落下中にムササビのように四肢を広げ、滞空時間を長くすることで落下の衝撃を軽減させているのがわかるでしょう。
猫はもともと木の上で生活し、単独で狩りをする動物です。現在の家猫の身体能力の高さは、しなやかで瞬発力のある筋肉を持つ祖先に由来するのでしょう。
落ちても大丈夫な理由
猫は哺乳類の中で、最も優れたバランス感覚を持つと言えるでしょう。その秘密は、猫の内耳にある前庭と三半規管が握っています。前庭は直線方向の動きや重力を、三半規管は回転運動を感知しますが、猫はこの器官が他の哺乳類と比べて非常に優れているのです。
二つの器官からの情報が脳に伝達されることで、猫は素晴らしいバランス感覚を発揮します。
また驚くべきことに、猫は腹腔内の臓器を自由に移動させることができます。そのため、体を大きくねじって回転させ、空中で姿勢を変えて着地することができるのです。
その類いまれなバランス感覚と特殊な体の仕組みのおかげで、猫は高所からでもひらりと着地できるのでしょう。
猫の転落事故
猫の転落事故には、どのようなケースがあるのでしょうか。よく発生するケースを知ることで、飼い主としてできる対策も見えてきます。
マンションのベランダからの落下
2階以上の高層階から何度も落下してしまう猫がいます。これを猫高所落下症候群(フライングキャットシンドローム)といいます。症例が多発したため病名が付き、多くの獣医師が警鐘を鳴らしています。
これは、猫の視力が悪く6~7mぐらい先までしか見えないことや、鳥や虫を追いかけているうちに高さを忘れて飛びついてしまうことなどが原因として挙げられています。落下して死亡するリスクは、確率が高い順に3階~7階、次いで7階以上、そして2~3階だと言われています。
つまりマンションの低層階だからといって安心して猫をベランダに出すことはできないのです。
キャットタワーなどの家具からの落下
低すぎる場所からの落下は、かえって危険な場合もあります。キャットタワーやテーブルの上など、低位置からの転落は落下距離や滞空時間が短いため、猫が体勢を立て直すことができないからです。
体勢を立て直すには落下距離約60㎝、滞空時間0.125~0.5秒程度が必要と言われています。それより低い場所からの落下はケガをする確率がかえって高くなってしまうことがあるのです。落下事故は飼い主の注意によって防ぐことができます。
落下の危険性がある場所には前もって対策しておくことが必要です。
事前に対策を!具体的な落下防止策
猫の落下防止のために有効な対策は、以下の通りです。
・ベランダに出さない
マンションの2階以上の部屋で猫を飼っている場合、ベランダに出さないことが一番の対策になります。窓を開ける際には必ず網戸を閉めましょう。
・ネットを張る
猫をベランダに出してあげたい場合におすすめなのは、落下防止ネットです。バルコニーの手すりや隙間などにしっかり取り付ければ、猫を転落から防ぐことができます。また、キャットウォークの転落防止にも有効でしょう。
・太らせない
肥満は猫の運動能力を確実に低下させます。また、落下時の衝撃も大きくなり、ケガの危険性が高くなるでしょう。健康維持のためにも、ぜひ適正体重をキープしましょう。
猫が転落してしまった時のチェックポイント
落下した際、しっかり着地したように見えても、骨折したり内臓を壊していたりすることがあります。特に注意が必要なのは、肝臓です。猫は弱っていることを敵に悟られないよう、病気やケガを隠す習性があります。
そのうえ肝臓の細胞は衝撃によって破壊されやすく、また無症状のまま病態が進んでいくため手遅れになりやすいのです。以下のような症状が落下の後に見られたり、普段と様子が違ったりした場合は猫を病院へ連れて行きましょう。
- 体を触って痛がる
- 四肢を曲げ伸ばして痛がる
- 舌を噛んでいる
- 歯が折れている
- 歩き方がおかしい
- 鼻血が出ている
- 呼吸がおかしい
また、肝臓の損傷は血液検査をすることで分かります。落下した高さや転落後の状態などを獣医師に伝えることで、ケガだけでなく内臓の状態も確認してもらうことができるでしょう。
まとめ
猫はマンションの2階程度の高さであれば、ケガなく着地することができるでしょう。優れたバランス感覚と柔軟な身体構造で、7階以上の高層階から落ちても無事な猫もいます。
反対に、落下距離が短いと落ちるまでに体勢を整えることができずにケガをしてしまうことがあり、かえって危険です。そのため、ダイニングテーブルやキャットタワーなど、室内での落下事故にも注意する必要があります。
落下防止対策としては、マンションならベランダに猫を出さないこと、窓を開けるときには網戸を閉めることが有効です。
ベランダには落下防止ネットを隙間なく貼っておきましょう。また、猫の健康のためにも適正体重をキープすることが大切です。万が一、猫が落下してしまった場合、異常がなくても念のため動物病院へ連れて行くことをおすすめします。
秘められた身体能力は猫の大きな魅力ですが、それを過信せず、飼い主として事故への対策を怠らないようにしましょう。
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